初めてアイドルを好きになった話
「いいなぁ、私もこんな人たちを応援してみたいな。」
QUEEN 好きの友人に誘われて観た映画の終盤、伝説のライブ・エイドを再現したシーンで一番に感じたのは、まず、羨望の気持ちだった。
私は昔から、アイドルが、いや、身を捧げて何かを応援するということが1度もできなかった。
また、QUEENのようなバンドも然り、アイドル以外の人物にも熱中することが殆どない。ただ沢山好きになってみたら何か熱中できるか?と思い手当り次第趣味を作っていったが、それほど熱を捧げる趣味には出会えなかった。
子供の頃から、自分の周囲にはアイドルを好きな友人たちがいた。
皆、好きな物について語る時の目が美しく、話を聞いているだけで自分も幸せな気持ちになった。
自分もアイドルを好きになってみたい、そう思うようになったのは何時からだっただろう。
何事に対しても、いつも何かを好きになる気持ちに保険をかけて生きてきたように思う。
今になっては、どうして自分の好きなものさえちゃんと選べない人生だったのか、疑問符しか浮かばないけれど。
しかし、2020年の春を境にそれは大きく変わった。
それは2020年を語るには欠かせない、世界中で今も尚大流行している新型コロナウィルス感染症の影響が大きい。
自分は大まかに分類すると、イのつく職業の末端であり、流行の影響を春先に一早く受けた。
世間の風当たりは冷たく、当時を思い返すと精神的にも身体的にも、かなり苦しい日々だったと思う。あの頃はできることはひたすらにやったし、自分は大丈夫!と思っていたけれど、精神的にも、段々と摩耗していくのを身に染みて感じた。
「どうして自分がこんなつらい思いを」
「でも仕事だからしょうがない」
「ずっと耐えていればいつかきっと」
「いつまでこんな生活を続ければ」
「でもこれはたぶん、社会や家族のためだ」
「自分で選んだけどこんな筈じゃなかったな」
…毎日が自問自答の日々だった。今も思い出すだけで胸が痛む。
自分で選んだ道を悔いるというのは、正直、身が裂かれるようにつらかった。
期待するだけ辛くなるのが目に見えていたので、自分にも他人に対しても、期待することを辞めていた。
仕事中に人前で泣いたことは新人時代から片手で数えられる程度だったが、この頃はあまりのやるせなさに、初めて涙が止まらなかった日があった。休憩中にも悔しさが込み上げて来て、泣きながら食事を摂ったのを覚えている。
自分では精神面は強靭な方だと思っており、タフな気持ちでいたけれど、気付かぬうちに身も心も摩耗していた。
そんなある日、友人に勧められたドラマを観た。
俗に言われている「梨泰院クラス」だ。
元々、韓国のwebtoon文化好きも講じてタイトルだけは知っていた。
韓国ドラマは、幼い頃から日本の漫画原作のものや、同じ俳優さんが出演されている作品などをしばしば観ていたこともあり、親しみやすかった。今まで観ていたドラマとはタイプが全く異なっていたが、鮮やかな復讐劇にすぐ魅了され、3日ほど休みを使い果たし、全て観終えていた。
他にも愛の不時着や、パクソジュンさんが出演されているドラマや映画など、本当に色々観た。どれも面白く、没入体験ができ、悲しい思い出を上塗りするには十分だった。
無我夢中になって観ていたので、しまいにはパクソジュン祭り(1週間毎日全て パクソジュンさんが出演されている作品を鑑賞する)をセルフ開催していた。
そんな中、パク・ソジュン祭りの中には入っていなかったドラマ「花郎」を家族から勧められることになる。それは、眉目秀麗のアイドルや俳優さんらが多く出演しているらしく、目の保養になる!と言った理由だった。歴史物はあまり興味が持てないな‥と一瞬渋ったものの、パクソジュンさんが出ているようだったので、すぐさま3話から飛び込みで家庭内上映会に参加した。
そこで私は運命の出会いを果たす。
「あれ・・・・なんだかこの子・・・パクソジュンさんにすごくべったりしている・・・・・・・・すごくかわいいな・・・・・・・・」
「ハンソン・・・・・かわいい・・・・・・・・・」
BTSに関しては「YouTubeのイベントで卒業式をできない人たちへ向けたライブ配信をやったグループ」で、若いのにえらいね〜…とか、まあ過去のニュース等で色々騒がれたことは少々知っている程度の認識だった。この頃の私は人生における悟り期に入っており、「人間、失敗することもあるし生きてさえいればオールオッケー!」と明石家さ…まみたいな事を考えていたので、細かいことは本当に全然気にならなかった。ハンソンがとにかくかわいい。かわいいは正義。
記憶を辿ると、ハンソンのことは、ネットの海で何度か見かけていた。
それは、パクソジュンさんが少しでも映っている写真を、過去のTwitter等含めて、誇張ではなく片っぱしから保存して歴史を辿り、ネットサーフィンで沢山のニュースやエピソードを履修し、いつの間にやらYouTubeのソジュンさんのチャンネルの関連動画でBANGTANG TVビハインドエピソードにもいつの間にか辿り着いていたためだ。YouTube、パーソナライズしてくれてありがとう。本当に感謝しています。
あとは梨泰院クラスのOST。この時は「Vて何…?名前がよく分かんないこわい人じゃんか…」と思っていた。(ド偏見)
勿論花郎も猛スピードで観終えたし、物語終盤のシーンではハンソンを思って涙を流した。
ああ、ハンソン、可哀想な子・・・・・。でもアイドルか・・・アイドルにはあまり興味を持てたことがないんだよな・・・
と思い、このあたりで一区切りがついた。
何かというと、パク・ソジュン祭りが、だ。
〜パクソジュン祭 終幕〜
この頃、久しぶりに地方で仕事をしていた友人と再会を果たし、数ヶ月分の苦悩や韓国ドラマ、パクソジュンさんの話で盛り上がる。
パクソジュンさんもYouTubeチャンネルを持っている。ただ、字幕がない。ぱだには韓国語が分からぬ。ただふわふわのわんこと戯れているのを雰囲気で「ふ〜ん、かわいいじゃん」するだけだ。なので少しずつ韓国語の勉強を始めてみていたが中々身にならず、苦戦していた。賢い友人だったので、勉強方法を相談しよう!と思った。
友人に、「購入した本の著者は、KーPOPで韓国語を学んだらしいけど、あまりアイドルには興味が持てる自信がない…」と相談した。友人も元々アイドルにはあまり興味がないタイプなのだが、「うーん確かに、でもBTSはかっこいいな〜と思うよ、ジョングクとか」と。
去年頃TwitterでTLに流れてきたジョンググさんの美麗写真を思い出していた。そうか、それなら少しアイドルの彼らも観てみるか・・・となり、帰宅後BTSのYouTubeチャンネルで一番再生回数の多い動画をみてみることにした。
お察しの通り、それが沼の始まりだった。
元々アニメや漫画、ゲーム、映画、ドラマ、日本のロックバンドなどエンターテインメントを広〜くうす〜く、自分の好きな物を見つけ、それなりには愛していた。なので、エンターテインメントには慣れ親しんでいる方だと思っていた。
ただ一つ、アイドルを除いては。
DNAのMVを観て、雷に打たれたような衝撃を受けた。
アイドルとは思えない激しいダンス、高い歌唱力、MVの映像の作り込み方・衣装・メイクその他諸々のお金のかかり方、全てが思っていたものと違う、と本気で思った。
自分は「アイドル」といった後付けの符号だけでなんという偏見を持っていたのだろうと、高慢になっていた己を強く恥じた。世界は本当に広く、人間は小さい。まさに井の中の蛙やないかい!!!!くそ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!
ハンソン目当てで見たものの、髪色も髪型もメイクも全く違うのに加え、1つのMVで衣装も何度も変わるので、1人特定するのにも困難極まった。ハンソン、どこ…?
ただ、この時一つ分かったのは、「これは1人のメンバーの力でやっているのではない、7人揃ってやることで成り立つ総合芸術だ」ということ。
その直後、丁度Dynamiteのカムバックに巻き込まれた。鮮やかな色彩で彩られたMV、可愛らしいB-side、練習動画 etc……供給過多に幸せで窒息しそうになる日々。
毎秒が新規絵、そしてこんなに安くていいの?! 衣装もCHANELやGUCCI、Christian Diorなど世界中のハイブランドばかり、TV番組のセットも毎回本気すぎてMVが沢山あるのかと最初は勘違いした。
最早MVとは…一体…
個人的に混乱に陥っている最中、Dynamiteが世界中の音楽シーンを席巻していくのを目の当たりにした。
初めは全く実感が湧かなかった。え、SUKIYAKIって坂本九さんの上を向いて歩こう以来????えっ、アジア圏のアーティストってそんなに????韓国でもPSYさんだけ???
と色々な意味で愕然すると同時に、BTSが成し遂げた偉業に、開いた口が塞がらなかった。Twitterでも世界中の人々から愛の言葉を囁きかけられているのはツイートを見て知っていたが、絶大な人気であることを記録で改めて実感。
…本当に知らないことが多すぎる、無知の知に気づけたソクラテスは、本当にえらいひとだなあ。 ぱだお
毎週どんどん更新されていくBillboardチャートの新記録に興奮が止められなかった。この辺りでようやくファンになったことを認めざるを得ず、ドキュメンタリー映画「BREAK THE SILENCE」を公開初日に見届け、無事に7人の見分けがつくようになった。(今思うとかなりの力技)
これはまた、彼らの作る世界観を理解する手立てにもなったし、この頃はブレサイの余韻でJ-HOPE is MY HOPEになっていた。
そうこうしている内にライブ映像を欲し、よく分からないまま、AmazonでBlu-ray初版を購入し、全員のパフォーマンスに酔いしれていた。
そうこうして楽しくARMYライフを送るようになった頃、オンラインライブON:Eを開催することを知る。仕事が偶然休みだったので、勿論観る事にした。
いや〜〜〜信じられないほど楽しかった!いや〜〜本当に楽しかった〜〜〜〜〜〜〜〜〜
正直あまりの楽しさに記憶が薄れているけれど、1日目のメントで唯一覚えていることがある。ステージに立つJIMINちゃんの様子が新規の私から見ても明らかにおかしい。「どうして自分たちがこんな思いをしなくちゃいけないのかなって…」と言って目から涙がぽろぽろと零れ落ちていく。
それはまさに自分も春先に感じていたことだった。
この言葉を聞いて、涙が溢れて止まらなかった。
ああ、みんなそれぞれ取り巻く環境や状況は違えど、同じ気持ちだったんだな。と。
自分が感じていた苦痛が独りよがりのものになっていたことに気がついた。
ジミンちゃんのそのたった一言で、これだけだったんだ!私が欲しかったのは!と思った。
誰かの一言が、自分への一言のように感じる瞬間はとても美しく、尊いものですね…
ああ、私、この人たちのこともしかしたらずっと好きかもしれない。
今まで一度も考えたことなかったのに、そんな言葉が頭に浮かんだ。
自分の住んでいる国とこの人たちの国の間には様々な問題があって、また苦しい気持ちになるかもしれない。
でも文化の壁を超えていく、Beyond the sceneという言葉を背負うことにした彼らならば…ずっとついていきたいと、もしかしたら願い続けられるかもしれない。
彼らが背負っている重圧も、みんなで背負ったらもしかしたら少しだけでも軽くできるのかもしれない。
そんなように考えるようになっていたら、いつの間にか胃の痛みが和らいでいた。
それから時は流れ、ニューアルバム「BE」のカムバックを心身ともに健康な状態で迎えることができた。
素敵なファンの方々がすぐさま翻訳をつけてくださり、彼らの提供する「癒し」を堪能した。
そうだったな、ある日突然、世界は止まってしまったんだった。
失ってしまって、もう取り戻せないものは沢山あるけれど、新たに得られた気付きがあった。
色々な偶然が重なり、BTSに出会い、そしてアイドルを初めて好きになれた。そして自分はアイドルに救われた1人となった。
まだまだ世界がいい状況に進んでいるとは言えない状態ではあるけれど、いつか、もし…という想像は止まらない。
あのウェンブリースタジアムのような大きなステージで、彼らのパフォーマンスを、私もあの憧れた輪の中に入って観られる日は来るのだろうか。
枕に頭をもたげたまま、部屋の天井を見つめ、思考に耽る。
もっと早く出会えていたら…とも思うが、これは今までの自分の小さな「好き」の積み重ねありきでしか出会えなかったんだと、今なら分かる。
BTSに出会えていなかった自分には、もう戻ることはできない。
今はまだ、いつか叶えたい小さな夢を抱えたまま、BTSと共に自分の部屋を旅している。